ソ連機と沈頭鋲(戦前から戦中まで)

2016.4.14:全面的に更新

九七戦や零戦とともに語られて、何かと話題になる枕頭鋲について、ソ連機ではいつごろから使われていたのか気になったので雑に調べてみた。詳しく調べるための足掛かりとなれば幸いだ。できれば追加調査、更新したい。


  • 枕頭鋲について

 沈頭鋲は平頭鋲、平頭リベットなどとも呼ばれるリベットの一種で、通常のリベットでは接合箇所の表面に半球形の頭が残るところを、平滑な表面を得られる。鋲を多用する金属製モノコック構造の航空機では機体の空気抵抗を減少させる効果がある一方、(方法により異なるものの)リベット打ちに手間がかかるという一面がある。
 ただし第二次世界大戦前や戦中のソビエトの航空機、特に戦闘機は資源入手性の問題から全金属製を避けることがあり、例えば胴体を見ればI-15とYakは鋼管羽布張り、I-16とLaは木製モノコック構造を用いている。これらの航空機では金属製モノコック構造の航空機と比べて使用する鋲の数が非常に少なく、沈頭鋲により得られる効果も限定的になることが想像できる。一方で爆撃機のSBやPe-2, DB-3などは金属製モノコック構造であるため、こちらに注目するべきかもしれない。
 英語ではcountersunk rivetやflush rivet, ロシア語では”потайной заклепки”, または”заклепки с потайной головкой”, “флеш заклепки”, ほか”потайной клепки”などの表現が使われていた。


  • 航空機への使用

ざっと調べた限りでは、ソ連では1933年頃に初飛行したいくつかの機体で沈頭鋲が使用されていたようだ。ツポレフ設計局のI-14 (ANT-31) , MI-3 (ANT-21) , SB (ANT-40) がそれにあたる。

    • Tupolev I-14 (ANT-31)

 I-14は1933年に初飛行した当時の先進技術を集めた全金属製の戦闘機で、単葉、金属製モノコックの胴体(主翼と尾翼は波板構造だが,後のI-14bisと量産型では平滑な主翼になっている)、引き込み脚を備えていた。競合するI-16が構造の簡素さと生産価格、そして速度においてI-14に勝っていたため少数の生産に終わっている。
 沈頭鋲を使用しており、I-14の設計と生産を通じて沈頭鋲の使用に関して経験を貴重な経験を蓄積できたと評価されている。(http://www.airwar.ru/enc/fww1/i14.html)

    • Tuporev MI-3 (ANT-21) 

 MI-3は双発多座の護衛戦闘機で、同じく双発多座の多用途機であるTupolev R-6の護衛戦闘機型、KR-6の後継機として開発されたが、採用されず製作されたのは原型機2機のみだった。初飛行は1933年。胴体がジュラルミンのセミモノコック構造で、部分的に沈頭鋲が使用されていたという。(っていう話が英WikipediaのANT-21項に書いてあった。時間があればもう少しきちんと調べたい。)

    • Tupolev SB(ANT-40)

 SBは全金属製の高速爆撃機で、原型のANT-40-2は1934年に初飛行している。こちらも当時の先進技術を集めたもので、胴体は金属製モノコック製で、引き込み脚を備えている。原型では沈頭鋲を用いていたが、初期の生産型では生産技術上の問題のため主翼と尾翼の前縁だけに用いられ、それ以外は通常の丸頭鋲になっているという記述がされている。(http://wunderwafe.ru/Magazine/AirWar/64/03.htm
http://mig3.sovietwarplanes.com/sb/sb.htm
http://pro-samolet.ru/samolety-sssr-ww2/bomberdir/78-bombardir-ant-40?start=2)
 モニノ中央空軍博物館には1機のSB 2M-100が保存されており、ネット上にwalkaround写真が上げられている。(http://www.primeportal.net/hangar/yuri_pasholok/tupolev_sb-2m100_katyushka/)
これを見る限りでは、前縁への沈頭鋲の使用については確認できなかった。ただ、尾翼のタブ部分は沈頭鋲のようにも見える。気になるのは機首下面で、よく見ると部分的に沈頭鋲が使用されていたり、沈頭鋲と丸頭鋲が交互に使用されているように見える。ただしこの機体は、Wikipediaによれば強行着陸したものを修復した機体であるらしい。機首下面の状態は修復時に変わったのかもしれない。


    • そのほかの航空機について

 SBと同じく金属製モノコック構造のDB-3はモニノ中央空軍博物館に保存されている。(http://www.asisbiz.com/il2/IL-4/Ilyushin-DB-3.html)ここを見る限りでは、沈頭鋲と丸頭鋲が使い分けられていた。機首周辺(窓の周囲を除く)とエンジンカウリング、そしてなぜか尾翼の動翼に沈頭鋲が使用されている。ただしこの機体も英wikipediaによればレストアしたもののようなので、発見時の機体の状況にもよるだろうが、参考にすべきではないかもしれない。できれば当時の写真を参考にしたいのだが。



Yak-9とLa-7、Il-10、Pe-2は現存機を見る限り全面が平滑で、機体表面に通常のリベットは用いられていないように見える。
 Il-2は現存機がなくはっきりしないが、写真から判断すれば金属製モノコック構造の機体前半には沈頭鋲または平皿ビスが用いられているように見える。ただしいくつか通常のリベットが用いられているように見える部分もあり、よくわからない。加えて、金属外翼を装備した機体では金属外翼の上下面に通常のリベットの凸が見えるような写真もあった。
(http://mig3.sovietwarplanes.com/il-2/il-2.htm)


・気になること
どの機体に沈頭鋲が使われていたか、ということは多少の不明点(特にSBについて)はあるにせよなんとなく雰囲気をつかめたものの、では機体のどの位置にどのような意図をもって使用されたのか、という点はほぼ全くわかっていない。そのうち調べたい。