【メモ】F.W.メレディス「ダクトに囲われたエチレングリコール冷却器に特に関連した航空機エンジンの冷却」について

2021/02/03 全体的に誤認していた部分を修正

2021/05/01 加筆 

 

メレディス効果」の発端となった報告書を読んでみたので忘れないうちにメモする。正直なところ十分に理解できておらず式もすべて追えていない。また関連文献も読んでおらず周辺分野の知識もないので解釈の妥当性は保証できない。もし何かの参考にするのであれば原文と突き合わせて読んでほしい。
 
報告書は以下のURLで読める。
Aeronautical Research Committee Reports & Memoranda No. 1683
(https://reports.aerade.cranfield.ac.uk/handle/1826.2/1425
数式を用いた理論的検討ではあるけど、使用される式は難しいものではないので、流体力学と熱力学に触れたことがあれば読めると思う。

 

要旨は以下(翻訳抜粋)
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 要旨 (a) 導入 (調査の目的)  近年の航空機の高速化によって、冷却抵抗の問題は顕著になり、低速冷却の原則を適用することが迫られている。更なる研究と設計のための指針となる、ダクトに囲われた冷却システムの性能解析が求められている。
(b) 調査の範囲 ダクト式冷却器の理論が発展し、抵抗計算の基礎が得られた。
 圧縮性の影響も調査された。
(c) 結論  適切に設計されたダクト式システムでは、冷却によって消費される動力は速度にともなって増加せず、それだけでなく廃熱による回復によって300mph程度の速度では推力が得られる可能性がある。
 高速飛行中の排気ガスの運動量の重要性に注意が向けられた。
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内容については以下。
メレディス効果の後世における評価はともかく、この当時の問題意識は1.序論に示されている。冷却器における熱移動は必然的に表面摩擦抵抗を伴うが、速度が増大すると、熱交換量の増加量よりも抗力による動力消費量が飛躍的に増えてしまう(冷却器のサイズを都度適切なものに調整した場合でも、動力消費量は飛行速度Vの2乗に比例する)。表面冷却方式を使用しても、抵抗は全く増えないわけではないし(そうなの?)、使用できる表面が限られている以上、後は温度差を稼ぐしか発展の余地はない。そこで注目されるのが冷却器を適切に設計されたダクトで囲い、冷却器を通る空気の流速を下げることで冷却面における動力消費量を低減する方式なのだが、ここで著者Meredithはさらに、冷却システムを上手く設計することによって、むしろ速度が増加するごとに動力消費量が減少していき、ある速度以上では逆に推力を発生させることを示そうとする。

 

 速度の増加に伴う動力消費量の増加については、具体的には円管内乱流の圧力降下についてのDarcy-weisbachの式とBlasiusの式(圧力損失は流速の1.75乗に比例)、また動力消費(仕事率)は圧力損失に体積流量を掛ける(→流速の2.75乗に比例)、また熱伝達についてのDittus-Boelterの式(熱伝達率は流速の0.8乗に比例)を思い出せば教科書的な知識と結び付けられるはず。
 冷却器のサイズを調整しても…というくだりはポリカルポフのR-5やVITで採用されたような引込式の冷却器の限界も示していて、適切に引き込んだところで速度が上がれば抵抗が一気に大きくなることは避けられないことがわかる。それに対して冷却システムを適切に設計すれば、速度が上がるほど抵抗が下がるというのだから、それが本当であれば非常に画期的だ。

 

以降の本文では理想的な冷却器の性質を検討した上でそれを以降の計算条件として設定し(2章)、それ以外にもいくつもの仮定を立てながら、冷却器を通過する空気について理論的な基礎式を立てて、ダクトの有無による効率を求めて(3章)、空気の圧縮性による影響が冷却器の性能や動力消費量に与える影響を検討し(4章)、最終的に、冷却器において消費される動力(仕事率)と熱交換により回復される動力の収支を求める(5章)。その関係式は特定の条件下を仮定して簡略化され、飛行速度Vと、「冷却器が自由に空気に曝される(=ダクトに囲まれていない)場合に、要求される熱量を移動できる速度」V0、そしてエンジン出力で表される関数として表される。なおメレディスはその際、エンジンの排気熱をすべて冷却器の排気に加えた場合と、エンジンの排気熱を利用しない場合(=冷却器を通じた熱交換のみ想定する)の2パターンに対して式を求めている。 

排気熱をすべて回収する条件については、冷却器の下流にフィン付きの排気管を取り付けることで達成できるかもしれない、と書かれているが要するにアイデアであり、実用的な条件ではない(はず)。なので実際の航空機を考える場合は、冷却器を通じた熱交換のみ想定する以下の式(30)を見た方がよさそうだ。

 

\frac{100(E'-E)}{BHP}=0.177(\frac{Vmph}{100})^2-1.725(\frac{V_0}{100})^2 …(30)

 

この式のV, V0に値を代入した場合の結果はTable 2に示されているがそちらは本文を見ていただくとして、とりあえずこの式について見てみる。左辺はエンジンの動力に対する冷却器を通過する空気の動力収支の%割合を示しており、右辺第一項は入熱による動力の回復量を、第二項は冷却器で消費される動力を表している。右辺第一項の値はVmph=300では1.6%になるので、そもそもこの程度のオーダーの話であることを認識したほうがよいのかもしれない。Vの2乗に比例するとはいえ、450mphでも3.6%程度だし、そこから右辺第二項の値を差し引かなければならない。

 

 なお右辺第一項の係数が第二項の係数の1/10なので、この式はV/V0が3程度の場合にゼロになる。V0の値は実際のダクト内の流速とは関連付けられていないが、3.2節ではダクトに覆われていない冷却器を通過する速度V(1-a)は実際のところ(1-a)=0.6程度になるとも語られているので、それをもとにすれば、飛行速度の20%程度までラジエータ内の流速を下げることができてようやく収支がゼロになる、ということになるだろうか。

 

一方で、式(29)はエンジンの廃熱をすべて回収した場合の動力収支%を示しているが、こちらで得られる動力は排気熱を利用しない式(30)の5倍になり、抵抗を差し引いた動力収支は、V=300, V0=100mphの条件ではエンジン出力の5%程度になる。

 

要するに、右辺第一項は速度Vの二乗に比例して増加するので、確かにMeredithが要旨で述べた通り、(総体的に見て)速度の増加に伴って冷却器で消費される動力が減少するし、右辺第一項が右辺第二項を上回るのであれば、推力が発生する可能性がある。とはいえそれは結局のところ、冷却器で消費される動力と、加熱された空気によって発生する動力の収支によって表されるものであって、それぞれが実際にどのような値をとるかによって状況は異なるものになる。加えてこの報告書では不要な抵抗のない理想的な冷却器を仮定しているし、エンジンの排気から熱を回収しない限り、そもそも得られる動力は非常に小さい。それを踏まえると、推力の発生、という表現には少し慎重になったほうがよいかもしれない。

 

なお、この報告書はあくまで理論的な検討であり、計算を進めるにあたって仮定されている理想的なラジエータの条件はいくつも示されているのでその点は示唆的とも言えるかもしれないが、より実際的な設置方法、つまりどこに冷却器を置くべきかという話はほとんど含まれていない。せいぜい、胴体内か翼内に冷却器を設置すれば外部表面積が増えないので表面摩擦抵抗は増えないだろう、という程度だ。

 
また排気ガスの運動量の利用については最後に考察されているが、本文に「この動力源から利用可能な動力を推定する試みはここでは行わない」と書かれている通り、可能性が述べられるだけにとどまっている。そもそも先に見た通り、エンジンの廃熱をすべて回収利用しない限り、冷却器で回復される動力は非常に小さい値なので一般的な飛行機には当てはまるものではないのでは、と思う。

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以下、読んでいて気になったことについてメモする。 

 

・この報告書では冷却器において発生する抗力を分類して、発生が避けられるものは無視している(=理想的な形状の冷却器について検討している)。したがって、この報告書で扱われる冷却器の抵抗は、ほとんどが冷却器の冷却面で不可避的に発生する摩擦抵抗であって、実際のダクトで発生する諸所の損失は含まれているわけではない。(一応ある程度の損失がダクトの入口で発生するものと仮定しているが、それも全体の損失の1割程度でしかない)

 
・「3.完全流体の中で動作するactuator discとして扱われる冷却器」で突然現れるactuator discがよくわからなかったけど、これはどうも流路の途中に流れに垂直に置かれた板状の装置を想定して、それを通じた動力の出入りを考えるもののようだ。
また、 式(12)の導出で展開と書いてある部分はマクローリン展開を用いればよい。

 
・4章で空気の圧縮性が与える影響を検討しているが、ここで4.1節では断熱圧縮による温度上昇を仮定し、4.4節の過程で理論の単純化のために等圧加熱を仮定し、その後の膨張による温度上昇係数として断熱膨張のものを使用しているので、空気は断熱圧縮→等圧加熱→断熱膨張の過程を経ることになり、つまりメレディス効果について語られる際にしばしば言及されるように、一種のブレイトンサイクルが成り立っている。

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(2021/05/01追記) 本文中ではブレイトンサイクルや類似した言葉は全く使われていない。なのでメレディス自身がブレイトンサイクルを想定して仮定を導入したのかはわからないし、もしかしたら、後になって一種のブレイトンサイクルが成り立っていることを指摘されたのかもしれない。知らんけど。

 空気の圧縮性が与える影響について述べたこの4章4.1~4.4節のうち、4.1~4.3節までの結果は補正係数として扱われるだけのものであるのに対して、4.4節はメレディス効果そのものである、加熱された空気が膨張する過程で利用できるエネルギーを求めている。

もし重要な部分だけ読みたいのであればここを読めばよさそうだ。

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・式(30)以外にも報告書内で何度も「冷却器が自由に空気に曝される(=ダクトに囲まれていない)場合に、要求される熱量を移動できる速度」V0、という迂遠な表現が使用されいるけど、これは同じ熱量を移動できる速度である場合、冷却器内を通過する流速が同じであることを表していて、つまり冷却器内で発生する抗力、動力消費も同じであることを利用している(はず)。5章ではこの動力消費量と冷却器全体の動力消費量の比をとって、ダクトがある場合とない場合の動力消費量の比率を仮定することで、既存の冷却器で得られた動力消費量のデータを理想的なダクト式冷却器の動力消費量に換算している。
 
以上、とりあえずメモした。
関連文献もそのうち読んでみたい。