スキー装備機に関して

 党中央委員会と政府では特殊な問題も審議された。積雪の上からそりで離陸すること、そりと一緒に脚を収納することの技術的困難、空気抵抗による速度低下など、どれもこれもが、ソ連の航空機を他国のものに比べて不利な状況に置いた。党中央委員会とソ連政府は、野戦飛行場の除雪は不可能と考えていた空軍幹部の反対を押し切って、除雪と地ならしを前もって実施することを提案した。このとき以来ソ連の軍用機は夏冬を問わず車輪によって離着陸している。

A・ヤコブレフ「ソ連の航空機」p.64

引用文の前の段落では、全ソ共産党中央委員会と人民委員会が1941年2月25日に採択した「赤衛空軍の再編成について」に関して述べられているので、引用文も1941年初頭の冬の話なのだろうか。この話が気になったので周辺についてざっくり調べてみたい。矛盾やソースの不明な個所が多いが、そこは大枠で捉えられればということでご勘弁願いたい。不足な点はそのうち追記したい。

  • ソ連のスキー装備機について

 雑に調べたところ、スキー装備機は第一次世界大戦の頃から既に使われていたようだ。固定式スキーはその後も多くの航空機で使用されていたが、1936年にI-16(Type 10)とSB(ANT-40RTs)で引き込み式スキーの試験が行われ(試験は別々?)、1938年頃からI-16とSBに装備できるようになっていたようだ。また冒頭の引用文にも関わらずYak-1, LaGG-3, Pe-2は1942年以降もスキーが生産または使用されている。しかしこれ以降の世代の戦闘用航空機では利用されず、タイヤを用いて離着陸したようだ。
 珍しいことにスキーが試作機や実験機に使われたことが多く、I-15の試作機TsKB-3, I-16の試作機TsKB-12, Yak-1の試作機I-26, I-180, I-190ほか多くの試作機、さらにはI-15bisにDM-2ラムジェットを搭載した試験機までスキーを装備している。http://militera.lib.ru/tw/maslov/01.html にTsKB-12の試験に関する記述があり、それによれば固定式スキーにより空力的に問題が生じ、試作機の利点は確認できないという不便はあったが、飛行試験を遅れなく始めることができた、としている。このようにスケジュールを優先しスキーを装備して試験を行うことが多かったのかもしれない。


  • スキー式降着装置の種類について
    • 固定式

 空気抵抗減少のため離陸後に水平を保つものが使われていた。例としては文林堂「世界の傑作機 No.133 ポリカルポフ I-16」のp.31にI-15bisのスキーの写真つき構造解説があり、それによればスキーの前部にゴムバンド、後部にスチールワイヤがあり、離陸の際にゴムが縮みスチールワイヤが伸びきる位置で固定される。

    • 引き込み式

 一例として同じく文林堂「世界の傑作機 No.133 ポリカルポフ I-16」のp.35にI-153装備の解説がある。固定式と異なりゴムバンドの類はなく、代わりに主脚の側方内側にスキーの姿勢制御用ストラットが一本追加されている。I-153は主脚を後方に引き込むためストラット一本のシンプルな形状だが、I-16では内側に引き込み胴体下面に密着させるためもう少し複雑なようだ。
http://www.23ag.ru/html/i16_modifikaciyi.htmlにI-16の引き込み脚試験の経過と引き込み時を含むいくつかの写真あり。1936年に試験は終了したようだ。また
http://www.rudolf.webservis.ru/72ag_books/mono/i15_i16/shavrov.htmにI-16 type10の引き込み式スキーに関する構造解説がある) 
機体によっては機体側のスキーと接触する部分の形状が大きく異なり、例えばIl-2ではかなり大きな整流カバーをつけている。

    • 着脱式(ВЗЛЕТНЫЕ ЛЫЖИ)

通常の車輪にスキーを装着し、離陸時に外れるようにしたもの。文林堂「世界の傑作機 WWIIヤコブレフ戦闘機」p.37に簡単な説明が、また
http://eroplany.narod.ru/bibl/shavrov2/chr2/p3/sky.htmに詳細な説明がある。1941年終わりの冬に様々な機を用いて試験され、最終的に機体の重量に合わせて三種類が製作されたと記されている。http://www.airwar.ru/enc/fww2/la11.html によれば整地されていない雪面からの離陸のために、La-11でも1948年に同様のものが試験されている。

ソ連以外にもスキー式降着装置を用いていた国はあり、 
http://www.vintagewings.ca/VintageNews/Stories/tabid/116/articleType/ArticleView/articleId/494/Anything-But-Wheels.aspxに多くの写真がまとめられている。これによればカナダ、フィンランドスウェーデンにおいてもよく用いられたようだ。ただしカナダでは戦場が遠かったため軍用機に用いる必要はなかったらしい。日本、アメリカ、ドイツ機のスキー式降着装置の試験時の写真も掲載されている。
日本におけるスキー式降着装置の試験については渡辺洋二「未知の剣」(文芸春秋、2002)に陸軍の試験について詳細な記載がある。それによれば、陸軍は1942年末から終戦にかけて北海道で一式戦、二式戦、三式戦、四式戦、九七重爆、九九双軽、百式試偵のテストを行ったようだ。スキーを引き込めず速度と安定性の低下が大きかった双発機の試験は中止され、戦闘機の試験ではスキーを引き込んだ状態で最大速度が8〜10%低下したほか、日が照ると滑走中のスキーに雪がまとわりついて転倒に至ること、金属製のスキーを雪上に放置すると固着することなどが判明したようだ。
 日本海軍では「世界の傑作機 No.91 九六式陸上攻撃機」のp.48に、1937年に九六陸攻、九六式艦攻、九〇式二号艦偵の試験を行ったと記されている。九六陸攻の装備したスキーは恐らく固定式だがゴムバンドはなく、スキーの前後にあるワイヤーで制御したらしい。

  • 雪上用以外のスキー装備機について

Me163, 秋水、X-15, S-26(Su-7改造の実験機), XF2Y
そのうち追記したい。

  • 極地用航空機について

LC-130, P2V-2N, AN-12FL
そのうち追記したい。

  • わかってないこと

 冒頭の引用文に関する詳細、裏付け、時期など。
 各機体のスキーの構造と、スキーを装備した場合の不利益に関する具体的な詳細。スキーの形状や大きさは異なるため機体ごとに特徴はあるだろう。
 各機体のスキー試験時期、実用開始時期について。
 ソ連の冬季飛行場の運用について。
 着脱式スキーの実用について。結局使われたのかどうか。


メモ

  • http://wio.ru/ロシア帝国の固定式スキーを装備した航空機の写真がいくつかある。
  • I-16の試験についてはhttp://www.23ag.ru/html/i16_modifikaciyi.htmlに、SBの試験についてはhttp://coollib.com/b/269220/readに、実用に関しては現時点での日英WikipediaのSBの項に記載されている(あとでちゃんと調べる)。それによれば、I-16ではType 29を除く1938年後半の生産型から(つまりType何から?)、SBではSB 2M-103のSeries 10から装備可能だったようだ。
  • Yak-1に関してはhttp://ram-home.com/ram-old/yak-1winter.html、LaGG-3はhttp://mig3.sovietwarplanes.com/lagg3/ski/ski.htm、Pe-2は http://www.airwar.ru/enc/bww2/pe2.htmlに記載されていた。Yak-1はスキーだけでなく冷却液や潤滑油の保温性向上の改修も行ったものを「冬季型」として生産したようだ。
  • スキー装備のSu-2の写真がhttp://scalemodels.ru/modules/forum/viewtopic_t_58740.htmlに上げられている。La-5の写真もある。R-10の写真は見つからないようだ。
  • http://www.airwar.ru/enc/bww2/pe2.htmlによればPe-2の引き込み式スキー試験は1942年2月に終了した(使用されたのはSeries 11か)。一方最初は原型機で試験されて1942年2月だけでも250機のPe-2に装備されたとある。ややこしそう。
  • SBの固定式スキー 2M-100装備では主脚の後方に梯子状の支柱が、引き込み式2M-103装備では主脚の前方に2本の支柱がある。
  • 世傑ヤコブレフp.99にMiG-3のスキー装備型が作られたとあるけど
  • DB-3, I-15bis, I-153について
  • 試験時期と配備開始時期を混同しないよう注意。またスキーの試験とスキーを装備した状態で行われた機体の試験がありややこしいので注意。
  • ゴムバンドとスチールワイヤを用いる方式以外の固定式スキーのピッチ制御について。ソ連以外ではいろいろあったみたい。たとえばグラディエーターやBf109、ハリケーンなど。ハリケーンは油圧で制御したらしいが。