【書評】Mikhail Maslov, “Soviet Autogyros 1929-1942”, Helion & Company (2015)

Mikhail Maslov, “Soviet Autogyros 1929-1942”, Helion & Company (2015)

 

 ソ連オートジャイロを扱ったモノグラフ。解説はソ連のヘリコプター黎明期からオートジャイロ開発の経緯まで解説するIntroductionから始まっており、戦前戦中のヘリコプターとオートジャイロの開発史としても読むことができる。本文ではソ連で開発されたオートジャイロが各機2ページ程度の文章と数点の写真で解説されている。最も成功したA-7オートジャイロについては本書の後半で特別に扱われていて、機体の仕様や運用の経過がより詳細にまとめられている。 

 

 全148ページのうち2/3は写真や図面が占めているため文章量は非常に少ないものの、開発目的から技術的な特徴、試験の結果とその後の顛末までが記されているので一通りの情報を得ることができるだろう。同著者の”Vakhmistrov’s Circus”と同様に、文章はいかにもモノグラフらしい淡々とした体裁になっているが、その間に挿入されるエピソードから当時の雰囲気を伺い知ることができる点も同じだ。

 

 ソ連初のオートジャイロ«KASKAR-1»の制作が終業後に集まって作業を進められていたり、次の試作機«KASKAR-2»は初舞台のデモンストレーションでは直前になって飛行許可を取り消されたにも構わず離陸して、政府代表団の数メートル前に着地してみせるなどのエピソードからは、このプロジェクトのもつ小規模なベンチャーのような雰囲気が感じられて楽しい。余談だが、今ではヘリコプターを表す«Вертолёт»という単語は、«KASKAR-1»の設計過程の中で登場した造語だという。

 

 しかしそれ以降は簡単にいかず、何度も試作機を作っては壊し続け、技術的には進歩していくものの相応の時間が流れていき、次第に関心が薄われていってしまう。最も成功したオートジャイロであるA-7では民間や実戦も含めて何度か実験的な運用がなされるものの、それもごく小規模なものにとどまり、さらに開戦と工場の疎開に伴う生産機種の選択と集中により、その活動が終わってしまう。最終的な評価は、プロジェクトの不振によってカモフが批判に晒された際にヤコブレフが擁護しているように、プロジェクトの技術的な複雑さと新規性を考慮すれば成果が出ないのもやむを得ない、というところだろう。もちろん、戦後のヘリコプター開発に至る過程として、十分な技術的経験を得ることができたという点も述べられて筆者によって述べられている。

 

 いくつか面白いエピソードもあるが、結局のところは成功することなく選択と集中の中で消えていったプロジェクトのお話であり、派手さはない。ヘリコプターの前史として、技術の潮流を見出すことはできる。そういった意味で、ソ連オートジャイロに興味がある方にはお勧めできるが、それ以外の方にはお勧めしづらいかもしれない。