【書評】“Red Stars vol.5 Baltic Fleet Air Force in Winter War.” Carl-Fredrik Geust

“Red Stars vol.5 Baltic Fleet Air Force in Winter War.” Carl-Fredrik Geust, Saumi Tirkeltaub, & Gennadiy Petrov, Apali, (2004)

 

・本書について

 フィンランドのApali社から出版されていたRed Starsシリーズの5冊目で、冬戦争におけるバルト艦隊航空隊(以下VVS KBF)と、同様にエストニアに基地を置いていた空軍の”OAG (Special Aviation Group)”の行動に焦点を当てたもの。第8軍に所属する航空隊や、北方艦隊航空隊の活動も一部含んでいる。本文は英語/芬語併記の192ページ。

 このシリーズは第二次大戦期のソ連航空事情をテーマごとに扱ったもので、検索してわかる範囲では、シリーズの構成は以下のようになっている。

 

  Vol. 1: Soviet Air Force in World War Two

  Vol. 2: German Aircraft in the Soviet Union

  Vol. 3: Camouflage and Markings of Russian and Soviet Aircraft until 1941

  Vol. 4: Lend-Lease Aircraft in Russia

  Vol. 5: Baltic Fleet Air Force in Winter War

  Vol. 6: Aeroflot Origins

  Vol. 7: The Winter War in the Air

 

 上記のうち、本書を含めた大半の著者(共著含む)を務めるのが、フィンランド人の航空史研究家であるCarl-Fredrik Geustのようだ。芬語版Wikipediaには彼のページがある。(https://fi.wikipedia.org/wiki/Carl-Fredrik_Geust) 

 

・内容について

 本書の内容は大きく3つに分かれている。まず始めに冬戦争のおおまかな経過を述べつつ、当時のソ連海軍航空隊の状況が概観される。ここでは海軍航空隊の管轄や軍管区との関係が説明され、そして停戦後に作成された報告書を引用することで、彼らが抱えていた問題が示される。

 次に、本書で扱われる各航空部隊について、構成とそれぞれ所属機種が解説される。ここではOAGの設立の背景とその目標も、VVS KBFと比較する形で解説される。

 そして最後に、開戦から停戦に至るまでの1日毎の戦闘記録が記述される。これが本書の内容の過半を占めている。ソ連側の記録をもとにフィンランド側の記録と照合するような記述がなされているため、実態をより正確に知ることができるだろう。なお、記述は「いつ・誰が・どこで・何をした」というようなもので、エピソードや関係者の回想などには立ち入っていない。(戦術についてはp.131に戦闘機による護衛についてほんの少し紹介されている程度)

 

 全体を通して著者の見解や評価が述べられることは少なく、「記録に語らせる」スタイルが取られている。とはいえ脚注がないため出典を遡ることはできないのだが(もしあったとしても遡ることができるか、という点は脇に置いて置かせてほしい。なお巻末に主要参考文献リストがあり、謝辞では文書と写真の提供元が示されている)。また、本文は基本的に英語/芬語併記なのだが、どうも芬語側の文章の方がやや分量が多いような、別にコラムが設けられているような気がする。

 

・雑感

 冬戦争の航空戦事情については、フィンランド側を主軸としたものが多く、一方でソ連側を主軸に置いたものはあまりなく、ましてや海軍航空隊、そしてOAGを扱っているものはそうそうないため、本書で示されるトピックは一つ一つが貴重で面白い。フィンランド側から見たソ連ではなく、ソ連側からの一貫した視点で彼らの行動を描き、彼らの認識していた問題を理解できるうえ、あまり注目されることのない任務を知ることができる。

 

以下に簡単にメモする。

・VVS KBFについて

 バルト艦隊航空隊 (VVS KBF) は開戦時に469機を有する一大勢力で、冬戦争にあたっては戦前の規定に従いレニングラード軍管区の指揮下に置かれたものの、実際の命令は艦隊の司令部から発せられることになっていた。レニングラード軍管区所属の航空隊とは作戦地域を分担しており、ヴィープリ以東は軍管区航空隊が担当したという (ただし、Koivistoの沿岸砲台は別)。開戦当時の彼らの目標は、敵船(イルマリネン、ヴァイナモイネンや潜水艦)や沿岸砲台の破壊、対潜哨戒のほか、敵飛行場への攻撃、偵察など幅広い一方で、兵力の集結していない都市や村落への空襲は避けるよう命令されていたという。(p.13)

 任務の中には戦艦「十月革命」(p.65) や「マラート」(p.66)と共同で攻撃にあたるものや、凍結したフィンランド湾を陸上部隊に移動させるために、そのルートを赤い塗料で示すものもあったという。(p.136)

 

 一方でOAG (Special Aviation Group)は、開戦後しばらくして軍総司令部が設立したタスクフォースで、こちらは空軍の指揮下にあった。目標はフィンランド南西(テュルクやタンペレ)への戦略爆撃で、ボスニア湾の港湾施設や、フィンランド中枢の鉄道分岐点、工場へも目標に含まれていた。(p.34)

 このタスクフォースを率いるのは空軍のトップエースであるG.K.クラフチェンコで、著者の見解によれば、彼が極東で経験を積んでいたため、OAGの増援には彼がよく知っているモンゴルや極東の部隊が選ばれたという。(p.42)

 

 これは印象でしかないが、戦争期間を通じて悪天候が多く、また特に開戦しばらくは事故や誤認が相次いでいるように読めた。このあたりはもう少し読み込みたい。