【書評】Osprey Combat Aircraft 71 “Il-2 Shuturmovik Guards Units of World War 2”, Oleg Rastrenin

Osprey Combat Aircraft 71 “Il-2 Shuturmovik Guards Units of World War 2”, Oleg Rastrenin

 

目次

Introduction

 Chapter One:

 Strike Force Development

 Chapter two:

Birth of the Legend

Chapter three:

 Stalingrad

Chapter four:

 The Tide Turns

Chapter five:

 The Final Stages

Appendices

 Color Plates Commentary

 Index

 

 

・著者について

Osprey Publishingの紹介文によれば、著者Oleg Rastreninはジュコーフスキー空軍大学卒の少佐であり、また科学博士であり……という経歴の持ち主。そして何より、Il-2をはじめとしたソ連の襲撃機に関する専門家である。彼の著作はIl-2や襲撃機に関するものばかりで、内容は機体そのものに留まらず、部隊の編制や戦術も範疇に収めている。

 

・内容について

 序章でIl-2親衛隊と航空機Il-2そのものについて簡単な解説を行い、1章で開戦時から戦争終盤までのIl-2部隊のおかれた環境や組織、戦術の変遷の要点を概説する。続く2章以下では後に親衛隊に昇格するIl-2装備部隊に注目し、それぞれ1941年、1942年、1943年、1944年以降について、出撃とその戦果を中心に、戦況や戦術、主要な活躍について記述している。内容はよく整理されており読みやすく、Il-2と襲撃機部隊の活動について多くを知ることができる。

 

 体裁こそIl-2を使用した親衛隊の部隊史となっているが、実際のところはIl-2の活躍シーンを収めたハイライト集と言った方が適切かもしれない。大戦の全期間を通じて対地攻撃に使用されたIl-2だが、その任務は戦況に応じて大きく変化し、またそれぞれの戦術も多様だったことが多くの事例とともに示されている。中でも類書であまり扱われないのは3章、1942年のスターリングラード戦でのエピソードだろう。ここでは航空機の数が不足していたことを背景に、対地攻撃だけでなく敵爆撃機や輸送機の迎撃に至るまで八面六臂の活躍を見ることができる。

 

 もちろんそれ以外の章も魅力的で、4章では幾分余裕の増した1943年について、目標を捜索しつつ攻撃する”Free-hunting”や橋梁攻撃専門の部隊、そして大口径機関砲やPTABなどの対戦車兵器が紹介されているし、そして最後の5章では、1944年以降、近接航空支援システムの完成により攻勢正面で敵地上部隊を蹂躙するIl-2の姿が示されている。2章で扱われている1941年の苦戦から読み通すことで、大戦中のそれぞれの時期におけるIl-2部隊の姿を知ることができるはずだ。

 

 もっとも、戦術や編制について重点的に知りたいのであれば、同著者の執筆した『主力打撃戦力』が本書より詳しい。邦訳・公開されている方がいるので、そちらを読まれるのがいいだろう。(洞窟修道院さんhttp://www.geocities.co.jp/SilkRoad/6218/の「ソ連軍資料室」http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/5870/RKKA.htmlにて公開されている)そうでない方も、本書の第1章の内容は上記『主力打撃戦力』と重複するところがあるため、日本語で読めるこちらを先に読まれると本書の理解が深まるかもしれない。

 

 

 もう一点、本書に補足するとすれば、第4章で扱われている対戦車兵器"PTAB"については、本書では触れられていないその欠点などについて、日本語で読めるものではドミトリー・ハザーノフ『クルスク航空戦()』が詳しいので、興味のある方はそちらを合わせて読まれることをお勧めする。